ブログ「社長のつぶやき」

2024.03.04 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

農業問題のパラドックス(逆説)

政府は「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法改正案を国会に提出した。2024年度予算成立後審議に入るようですが、国民の関心(メディアの関心というべきか?)は薄い。また、関心のある人にとっても、立場によって見方が180度異なる。それを私は「農業問題のパラドックス(逆説)」と呼びたい。

(1)「食料安全保障の確保」が、基本法の中心理念であることは間違いない。自国農業衰退による食料危機を、多くの国民は心配している。食料自給率38%、将来は更に低下するのではないかと危惧している。しかし、農業現場での心配は「生産過剰」の問題です。お米も野菜も常に生産過剰による暴落を心配している。更に言えば、農業生産資材高騰にも関わらず、生鮮食料品の価格は上がらないことに対して、一定の所得補償政策を打ち出すべきか、生産過剰が収まるまで放置すべきか議論が分かれている。率直な意見を言えば、生産不足気味のほうが生産者はありがたい。

(2)「環境との調和」との温度差。国は農林水産業の環境負荷を減らすための7項目「①肥料の適正使用 ②農薬の適正使用 ③電気・燃料などエネルギーの削減 ④悪臭や害虫の発生防止 ⑤廃棄物の発生抑制と循環利用・適正な処分 ⑥病害虫防除など生物多様性への悪影響防止 ⑦環境関連法令の順守」を掲げ、これをクリアしないと補助金対象から外す政策の実現を目指している。多くの国民は安心・安全な食糧生産を期待し、有機農業の推進や化学農薬・肥料の削減ができれば、環境にも優しく、生産コストも下がり、良い事ばかりと考えている。

しかし、現場では大雑把に有機農業を実現するには、生産量半減、労力は2倍と思っている。掛け算で今の4倍位の価格で売れないと経済的に合わないが、現実はせいぜい1.2倍位しかならない。環境問題の取り組みにしても、そもそも国土の保全、環境と文化の守り手は農村ではないかという自負がある。双方の認識には大きなギャップがある。現在、EUで多発している農民デモも、根底には「農業は環境の破壊者」と定義づけるような環境政策に、農民が我慢できなくなったということが大きいのではないだろうか。環境の保護者と自負していた農民が、犯罪者のように扱われたら我慢出来ないだろう。牛のゲップがCO₂増加の主要な原因と言われてもなかなか打つ手はない。また、循環利用型農業は農家も望むところであるが、そのためには使用資材削減効果の何倍もの設備投資が必要となる。

私が具体的な提言を出せるわけではないが、一番心配しているのは基本法改定が成立しても、農業の担い手がいなくなるのではないかということ。現場と理念の間には、大きな乖離があることを、できるだけ多くの人々に知っていただきたい。そしてメディアも、もう少し深掘りしていただき、かつもっと積極報道してもらいたい。

2024.02.05 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

EU 農民デモに注目

1月末、ニュースでEU圏内のフランスで始まった農民デモが、欧州全体に広がりつつあるというニュースを見た。個人的には「やれやれ」という気持ちですが、高速道路を封鎖して、パリを包囲という動きに、正直派手だなと感じた。高速道路封鎖という行動に市民はどう思うのか? 日本だったらおそらく農家の傲慢と避難されるだろうが、EUでは市民にも農民行動への一定の理解があるのでしょうか、それとも実力行使はフランスの伝統だろうか?日本においても現在の農業環境は最悪ですが、風土なのか、国民性なのか、「高速道路をトラクターで封鎖」という行動は多分思いつかないし、多くの国民の共感も得られない。くどいですが、日本農業も最大のピンチですが農業現場目線のメディア報道は少ないような気がします。農業は、生産性が低く補助金で成り立っているのに、自分勝手なわがままな行動だと思う国民が半数以上だろうと想像します。  

JAcomのネット配信、イタリア農民デモの記事の中で「農業はその収入の半分以上を国の援助に頼っているが、それは我々が市民のためにコスト以下で製品を売っているからで、国はその差額を払っているだけだ。・・(一部省略)・・。現在のEUの政策は、第一次産業を破壊しようとしているとしか思えない。失業者が増えるだろう」と、イタリア農民委員会のリーダーの一人の発言を取り上げている。これは、日本の特に穀物農業(主に米作)も近いと感じる日本の識者はどのくらいいるだろう?

 EUは、「有機農業」に対する基準も、環境政策の目標値も日本より高い。マニアックな知識だが、有機農産物を名乗るには使用する種苗においても、その生産が有機農法による収穫物でなければならないと聞き、正直すごいなと思っていた。しかも、支援するウクライナからは大量の廉価な穀物が入ってくる。その中で農業を頑張っているEU農民は立派と思っていたが、デモの理由を聞けば日本と状況は近いと、変な感想かもしれないが少し安心した。自分なりに解説すれば、農産物価格はあまり値上がりしないのに、使用する「農業資材価格」(石油類・肥料・飼料含む)は高騰、ただでさえ苦しいのに追い打ちをかけるように、厳しい環境基準を突きつけられ、補助金はカットされる、もう我慢できないという理屈だと思う。   

EUを先進事例とする日本の政策もEUに近づいているが、現場は「空想論・理想論」と感じている農業者も多い。日本の農業団体は高速道路を封鎖するような実力行動はしないと思うが、怒りの気持ちはEU農民に近いということを少しでも理解していただければ、ありがたいと思います。

2024.01.15 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

農業こそ多様性が大事ではないか?

2024年は農業関係も上向くと、大した根拠もなく新年を迎えましたが、いきなり1日には能登半島大地震、翌2日には日航機と海上保安庁小型機が滑走路で激突する等、ショッキングな幕開けとなりました。日航機の乗客・乗員が全員脱出できたのは唯一の吉報ですが、能登支援に向かう海上保安庁小型機の乗員の命と、能登半島で数百人の命が絶たれたことは只々無念です。心中よりお悔やみ申し上げます。

さて本年2024年は、農業基本法が25年ぶりに改定予定です。根底にある思想は「食料安保」と「地球環境問題」への対処にあるようだが、これは根底から疑問がある。「健全でイキイキした農業者」が確保・維持できなければ、上記概念は机上の空論となる。まずは日本農業とそれを担う農家の経済的・精神的地位向上が優先事項だ。西暦2000年頃から弊社においても、園芸先進国オランダに学び、規模拡大と生産性向上に役立つ商品の開発普及に力を注いできた。それが将来の日本農業を救う道だと信じていた。しかし、国は2022年「緑の食料システム戦略」を打ち出した。地球環境への対処と、肥料・飼料等を海外に頼る脆弱な生産基盤に対応するためだろうが現場は混乱した。生産性拡大一辺倒の立場から言えば、相反する事ばかりだからだ。その間を「スマート農業」の推進という言葉で繋げたが、イメージの独り歩きのようで現場は更に迷っている。第一に設備投資しようにも農産物価格は上がらない。農家所得は下がるばかりで設備投資どころではないのが現状だからです。

私は、もう一度農業にも「多様性」概念を大事にできないかと思っている。規模拡大と労働生産性向上を目指す農家・農業法人が今後も中核とは思うが、定年帰農者や新規農業参入者、夢やロマン、または健康への懸念から有機農業を志す人、高齢者や障害を持った方々も生き生きと参加できる農業、また家畜の命のあり方を懸念する人々が始める農業、そんな多様な農業へのアプローチ、そして現場で頑張っている人がいてこそ、日本農業の強さになるのではないかと思う。そして、多様性のある農業とそれを支える農業者に寄り添える会社でありたいと願っています。

2023.12.11 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

今年もはや師走

早いもので今年もはや師走、猛暑の夏から一気に冬に突入したような季節感覚ですね。農産物は、残暑と急激な冷え込みで、9・10・11月の市況は乱高下しました。

このような状況の中、農家サイドから見て面白くないのは、価格が暴騰した時だけ「野菜が高い」とニュースが取り上げることです。価格が高くなるのは、予期せぬ残暑の継続で収穫量が落ちているのであって、大半の農家は儲かっているわけではない。むしろ思うように収穫できない辛さは、金額の大小に関わらず農家にとっては大打撃です。安くなった時は「お買い得情報」が流れるが、農家が安値で途方にくれているとの話題は殆ど出ない。同様に食料安全保障の必要性や自給率低下が、国の大問題として取り上げられるが、肝心のそれを担う農業者の苦しい経営実態を論じる評論は少ない。 

2020年は、予期せぬ「新型コロナウイルス」によるパンデミックスで始まり、ほぼ4年間、生活スタイルの変更を余儀なくされた。また、2022年にはロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻した。この21世紀にこんな露骨な軍事攻撃があるのかと目を疑った。それ以来「話し合いで解決しよう」という思想は、机上の空論、平和ボケと言われた。この年になって自分の考えや生活スタイルの大幅な変更を迫られるような「現実」が次々に発生したのは、まさに「想定外」の出来事でした。 

一方、「人新世」という皮肉を込めた?人類の時代という意味での地質学上の言葉も脚光を浴びた。農業という産業も競争原理に基づいた「経済活動」であることを忘れないでほしいが、農業というと急にロマンチックな議論をする人も多いように感じられる。将来の農業はどうあるべきかについて、改めて具体的に模索する時が来たようです。少なくとも大規模化による競争原理と弱肉強食による淘汰が、将来の農業を強くするという理屈はすでに破綻していると思う。2024年以降の農業についてもしっかりと見て行きたい。

 2024年は、農業を担う人々にとって良い年になることを願う。また、農業を担う人々にとって少しでも役立つ会社でありたいと願っています。

2023.11.06 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

11月からは暖地の収穫の本格的始まり、しかし不安がいっぱい

今年もはや11月、暑かった9月が過ぎ10月に入ると急激に秋らしくなってきました。11月から来春までは、いよいよ温暖産地の出番です。弊社も下半期入りです。最大の焦点は、資源高、青果安に苦しんだ過去2年間の状況から脱却できるかどうかです。一番望ましいシナリオは、農家にとっては豊作でありながら、青果価格が上昇することです。

10月は、トマトが異常に高いとテレビや新聞で何度も報道されたが、決して生産農家が儲かっていたわけではないだろう。採れてないだけです。出荷量✕平均価格で言えば、おそらく農家も苦しんでいるだろうと思われる。一番大事なことは、2年に及ぶ資源高(生産費の上昇)に見合う価格形成が、農家が納得できる出来栄えの上で、再生産意欲を掻き立てられるほどの水準で行われるかどうかである。

私は怖い夢を見ることがある。今年は渥美半島を巡回してもいつものようにキャベツの作付けは実施されている。今年こそはと農家は期待しているのだ。その努力には思わず涙腺が緩む。もし今冬の青果価格が暴落したら、来年度は何も作付けされない畑が広がるのではないかとの悪夢を見る。

食料・農業・農村政策基本法の改定が議論されている。世界各地で地域紛争が激化する中、最上位概念は「食料安全保障」の問題となっている。しかし、これは順序が逆ではないかと私は感じる。現に農業で頑張っている農家の皆さんに明るい未来を提示できなければ、誰が「食料安全保障」を担保するのだろうか。
かつて「沈黙の春」という名書があった。来年以降「沈黙の畑」「沈黙の田んぼ」が増えるのではないかと懸念している。これは遊休農地とは違う。作付けしても採算が取れないからやむなく休耕するということだ。農業にも新たな担い手はいるが、正直減りつつある。食料安保議論は、「国防」や将来予想される「飢餓からの回避」を優先論議するほど、現場の実態が放置されるように感じるのは私だけだろうか。

2023.10.04 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

農家が8割減る日?

日経新聞2023年9月18日日曜版によると、国内の農家数は農業法人も含め23年2月で92万9千戸。このままでは離農が急速に進み、三菱総合研究所は2050年に17万7千戸になると推計する。現在に比べて実に81%も減る計算となる。これが本当だとすれば、我々のビジネスマーケットは相当縮小することになる。但し、耕地面積の減少率には触れていないので、その多くは一部の既存農家が規模拡大を図ることは考えられる。或いは新規参入法人が遊休農地を活かすことは可能かもしれない。これはAI等を利用した『スマート農業』が推奨されている理由でもある。

一方、農林水産省は昨年『みどりの食料システム法』を制定した。環境に優しく2050年カーボンゼロを目指す取り組みではあるが、現場サイドから見ればより農業に労働集約を求める内容となっている。安心・安全な無農薬有機農業は確かに望ましいかもしれないが、慣行農法に比べれば相当人手がかかる(よっぽど高く売れない限り労働生産性は低くなる)上に、単位あたりの生産量は低くなる。
そうした状況下において、農家・農業を相手にビジネスをする当社の将来戦略はどうあるべきなのか、正直なところ道が見えてこない。少なくとも言えるのは、減少を続ける専業農家により支持される会社を目指すことだけである。
農業に関わりのない一般の消費者は、農業にはなぜか現実を超えたロマンを求めているように思うことがある。農業も立派な産業であり、資本主義・自由主義の論理の上に成り立っていることを理解してもらいたい。

一方、私にもロマンがある。農業こそ「多様性」の概念が大切だと思う。農業には従来からの家族型農業があり、また規模拡大を目指す農家の方もいる。この他にも定年帰農型の小農家、直売所での販売に生き甲斐を感じる農家、或いは無農薬・有機農業を志す農家、自給自足型ライフスタイルを志向する人、地球温暖化やアニマルウェルフェアに関心が深く、何よりもそのことを優先しようとする農家の方などもいる。このような其々多様な農家が絡み合って、種まきから収穫までのストーリーと価値観を理解する消費者が増え、作る側も消費する側も幸せを感じる世界(それぞれが成り立つような価格形成)が描ければ、日本の農業はむしろ強くなる、私はそう願っています。

2023.09.06 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

ちょっと嘆きながら、未来は良い方向に

 農林水産省は2022年度農業生産資材価格指数が前年に比べて9.3%上昇したと明らかにした。一方農産物価格指数は1.4%の上昇にとどまったと発表した。農家の感触はそんなものではないだろう。仕入・物流コストの上昇は20%以上、販売価格はほぼ0%の上昇というのが主観的なイメージと思う。更に消費者の購買指数も100%を割り続け、特に食料品の買い控えが目立つようなので、今後の販売価格の反転も当面は期待薄でしょう。更に9月に入っても猛暑が続き、大雨のニュースは目を引くが、より深刻なのは今後予想される干ばつ被害でしょう。明るいニュースが見いだせない。先日のNHKクローズアップ現代で農業不況の特集を見た。農業の窮状を捉えているなと思ったら、途中から「有機農業」の話題となり、有機農業と国産堆厩肥や汚泥の積極活用に活路を見いだせるような流れになっていた。少し違うのではないかと思ったのは私だけだろうか?

兎にも角にも今年の秋冬以降の農産物価格の推移によっては、相当農業に前向きな専業農家でも子供には継がせたくない(或いはそんな事はとても言える経済環境ではない)と考える農家が圧倒的に増えるのではないかと心配している。この現状を打開する画期的な施策が必要だと思うが、国は日本農業の危機を感じていないのだろうか?或いは打つ手が見つからないのだろうか?と日々個人的には憤慨している。農家の高齢化問題や遊休農地問題は、結果として現れる現象であり、根本的に大事なのは農業が楽しく、やりがいがあり、世や人のためにもなる、結果として努力すれば平均より少しは儲かる職業になるという状況を作り出すことだ。残念ながらピンチです。 大げさなことを言うようですが、現在の為替水準(145~150円/1ドル)が続くようなら、お米を含めた日本産農産物価格は現状の倍位にならないと持続可能性が危ぶまれるのではないかと思う。それには消費者も「もの」の価値観を180度変える位の覚悟が必要でしょう。もちろん安い食品しか買えないという消費者層も多数だと言う現実はある。それは違う政策論で議論してもらうしかない。「より安全で安心なものをより安く」から「より安心で安全、かつカーボンニュートラル、また家畜の生命も大事にする農業をそれに見合った価値で生産者と消費者が納得して買う市場」を目指すのであれば、もはや経済合理性のみを希求する従来の自由経済市場では機能しないだろう。人類は岐路に立っているとさえ思う。人類の食を支える農業問題はカーボンゼロ社会、或いは現代文明の転換を構想する際の一丁目一番地の課題でしょう。

2023.08.02 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

経営計画書による経営

今年も8月がやってきた。言うまでもなく最もHOTな1ヶ月です。
多くの農家も種蒔き、そして苗の定植時期を迎える。弊社にとってはプロ農家向け種苗の販売がピークを迎える最繁忙期。しかし8月はお盆があり、また学校は夏休み、子育て中の親は子供へのサービスも欠かせない月でもある。仕事とプライベートを両立しながら、熱中症や事故等に遭うことなく全員が無事に乗り切ってほしいと願うばかり。ここを通過しないと当社の決算は作れない。

ところで最近は㈱ビッグモーターの異常な会社体質が度々報道されている。「経営計画書」「環境整備」等私も聞き覚えのある熟語が並ぶ。20年以上前指導を受けた先生は一緒だったようだ。しかしそうしたツールは使い方によってこうも変わるものかとびっくりした。私にとっての経営計画書は、もちろん数字目標を決めることは一緒ですが、あとは会社の考え方(理念)、お客様への接遇方針を示すことが重要で、いわば会社としての「ベクトル合わせ」の道具だと考えています。どこから切っても同じ顔の出る金太郎飴ではなく、各個人は思いっきり自分の強みや特徴を発揮して欲しい。ただ基盤となる会社のミッション・ビジョンはしっかり構築したほうが社員は安心して働ける、そう考えての経営計画書だと思っています。しかし残念ながら上記の会社はそれで社員を縛り付け、不合理な信賞必罰を徹底し、恐怖(パワハラ)経営を行うための道具として活用しているようにしかみえない。

かつて地元の会主催による「掃除を通して学ぶ」研修に参加したことがある。 地元の中学校の男子便所をピッカピカにするというミッションでしたが、あまりに汚く、尿残渣がこびりつく酷いトイレでした。そこを手袋も使わず素手で掃除をする。最初は不潔に耐えられなかったが、やがてピカピカになると気持ちがほぐれた。問題はそれからです。少しきれいになると更に次から次へと汚い部分が改めて見えてくるのです。そこもきれいにしないと気が収まらない。その時私はこれだと思いました。一旦上を目指して行動を始めると、新たな高み、しかもとてつもない高みが見えてくる。商売も同じように普通にやっていれば見えないが、一旦スイッチが入れば次々に見えてくるものがある。それがないと、そして相手がそれに気づいてくれないとお客様から支持していただけない。

店舗前の街路樹の葉っぱが一枚落ちていたら減点、降格というのはとんでもないやり方。社員から見ればそうなる要素をすべて取り除きたくなるのは当然でしょう。結果として公共への罪にもなる。

2023.07.03 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

鶏卵業界の今から将来の施設園芸業界を考える

 7月を迎えた、秋冬作の始まり、文字通り会社にとって最もホットなシーズンです。数年に及ぶ農業不況・資材・資源価格の値上がり、今年も期待をもって農業者が営農を続けてくれるのか、正直心配です。自分の首を絞めるようですが「施設園芸」の未来になかなか明るい展望が見えてこない。生産者から見れば、設備投資に見合った収益があがらない悩み、消費者から見ればより安全・安心な低価格農産物の要求、国レベルでは環境負荷低減への取り組みや国産有機農業への転換に向けた政策誘導。どれも当面はさらなる生産コスト上昇と農業者の労働強化を強いているように見える。一方で食糧安保は国にとって最重要課題、日本農業の維持発展は欠かせないと言う。多くの国民はこのギャップに気づいているのだろうか?

 2010年前後に施設園芸の規模拡大志向が盛り上がったが、なかなか大型施設の採算性が良いという話も聞かない。確かに大型施設ほど自動化は進めやすく、環境汚染低減装置の導入や自然エネルギーの導入も単位面積当たりのコスト安につながり、有利な面はあると思うが、それに見合った収益は中々上がっていない。多様性概念や作り手個々の「ブランド化」(ストーリー化)にはむしろ逆行している。

 いま私は「園芸業界」の未来を占う意味でも「鶏卵業界」に注目している。畜産農業の中に鶏卵業界は位置づけられるが、園芸農業よりも早くから寡占化と規模の巨大化が進み、ごく少数の農家(鶏卵経営者)がしのぎを削っている。スーパーでは1玉10円台で目玉商品として売られ、しかも日本の卵は生で食用可能(サルモネラ菌はついていない)が絶対条件。価格面では国際競争力の高い唯一の農産物です。
しかしながらここ数年の飼料価格の暴騰と、ほぼ完全に防護が進んだはずの巨大鶏舎での鳥インフルエンザ禍で需給バランスが崩れ、久々に高値圏で推移している。メディアは卵の高騰を連日のように報道し、「こんなに高くてはもう卵は買えない」という庶民の声を伝えている。しかし世界的にはアニマルウェルフェアの考えから、平飼いが普及しつつあり、また国からも国産飼料への切り替えと鶏糞の肥料としての再活用が奨励されている。
個人的にも家畜としての採卵鶏の一生はあまりに過酷だと思う。排卵が始まると(ほぼ毎日1個)、身動きの取れないゲージに1~2年ほど入れられ、採算性が悪くなると(卵を産まなくなると)、産廃業者に処理を依頼され(費用を払う)、命は奪われ、まわりまわって「親鳥」や鶏肉ミンチとして食卓に上がることもある。鶏卵業者を悪く言うつもりはない。巨大な資金をかけ、現実の経営環境の中で必死に戦っているのだ。しかし私も個人的には「命」としてはあまりに過酷ではないかと考える。
また少なくとも巨大施設の均一性よりも「多様性」(平飼いを含む)を増やすほうが中長期的には安全ではないだろうか。ゼロコロナ施策が無理だったように高病原性鳥インフルエンザも発生圃場の処分・隔離だけでは防ぎきれないのではないかと心配している。卵が店頭に並ぶまでにはストーリーがある。10円から200円位の卵を売ることができる社会環境が必要だ。価格は確かに生活者の経済力にもよるが、その人の生き方、考え方にもよる。ただし将来においても10円の卵は生産者・消費者双方の健康問題に関係しそうなのでそれは安全基準を法で整備すべきだろう。鶏卵業界は明らかに世界的に岐路に立っている。
園芸業界は鶏卵業界を良い意味でも悪い意味でも農業業界の先駆者ととらえ、その動向を観察しながら将来のかじ取りをすることが肝要と思う。その際多様性概念は必須だと私は考えます。

2023.06.16 [ 社長のつぶやき | 日々のつぶやき ]

食料・農業・農村基本法の改定は如何に

2023年6月2日東三河特に豊橋・豊川・蒲郡を中心に集中豪雨被害に見舞われたお客様・また一般の皆様に深くお見舞い申し上げます。

かなり日時も経過したわけですが、台風被害とは違い、その全貌がなかなか見えてこない。大雨による作物の水没は、ほぼ全滅ですから、台風時のようにすぐ直してくれというニーズが少ないからだろうと思います。精魂込めて作った作物が台無しになるだけでなく、壊れた機械、侵入した泥水やガラクタを片付けるだけでも気の遠くなるような作業でしょう。保険の有無や国・県・市の支援体制が整うまでは動きが取れないというのも実情でしょう。
いずれにしても被災されたお客様の立場に立って誠心誠意お手伝いできればと思っています。

さて食料・農業・農村基本法の改定が大詰めを迎えています。
農業の憲法のようなものですから大変だとは思いますが、大筋は食料安全保障の観点が一番大きいようです。国内自給率を高め、やる気のある後継者を育てるためには、より大規模化、IT化(スマート農業)を図り、生産性を高める必要がある、そして農業輸出大国になることも大きな眼目のようです。
一方で持続可能でカーボンニュートラル、有機減農薬農業の推進も掲げられています。
双方は本当に両立できる概念なのか? 現場サイドから見れば化学肥料は使わない、農薬は使わない、そして価格は下げて国際競争力を高めるというわけですから、「今の3倍働けというのか!」との農業者からの声なき声が聞こえて来ます。
私は「多様性」(Divercity)概念をもっと中心に据えるべきと考えます。定年帰農農家あり、夫婦間や老人・子どもでの兼業あり、理想と夢に燃える新規就農者あり、中山間地に自給自足的生活を求めて都会からドロップアウトする人あり、自然栽培・有機栽培に徹底してこだわる人あり。そうしたスタイルの多様性こそが将来の日本農業を強くする、というか将来起こりうる環境リスクや国際紛争にも強い国を作ることだと思っています。

食糧安保を語る際には国防力強化とは違い、様々な個性・考え方を持った農業者が経済的にも生きていける制度の構築のほうが結果として強靭な国を作ることになると考えています。また消費者も農産物ができるまでの物語を見つめなおし、自らの健康維持も含めその価値について再考願えたらと思っています。